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1・プリミティブアートの魅力
私たち人類はいつ頃からこの地球上で暮らしているのでしょうか。何千年、何万年という時間の流れの延長線上にいる私たち。現在の多忙な都会生活の中で、そんなことに思いを馳せる機会はなかなかないかもしれません。歴史の教科書では世界の四大文明について学んだことがあるでしょう。しかし、それ以外の地域でも太古の時代から人々の営みは存在しました。
アフリカでも古くから人々の暮らしがありました。サハラ砂漠の山岳地帯には岩に描かれた絵が数多く残っています。それらの絵は古いもので紀元前6千年以前に描かれたものとわかっています。紀元前4千年頃のアルジェリア、タッシリナジェールの岩壁画には仮面をかぶった人物が描かれています。その頃のサハラは湿潤な緑の草原で、野生動物も多く生息していました。そんな中で、人々は仮面を作り、儀式や祭りを行っていたのでしょうか。現在のコートジボワールにはこれとそっくりの仮面が存在します。仮面文化がその時代からあったことは十分考えられます。
また、近年ナイジェリアで発見されたノック文化のテラコッタの彫像は、紀元前5世紀から紀元後5世紀に作られたものであることがわかっています。そのすばらしい造形もさることながら、髪型や装飾品の表現から、当時の人々の豊かな文化をうかがい知ることができます。
アフリカには古い木彫りの仮面は現存しないため、仮面文化がいつからあるのかはわかりません。ヨーロッパ人がアフリカに進出したのをきっかけに、アフリカの仮面や神像は知られるようになり、プリミティブアート(原始美術)と呼ばれました。それらに込められた力や奇想天外な形態に、ピカソやクレーらのヨーロッパの画家たちは感銘を受け、自分たちの作品に精力的に取り込んだのです。
プリミティブアートはアフリカだけでなく、世界各地の土着の民族美術のことを指します。今の私たちより自然や宇宙を身近に感じながら、自然界の精霊や祖先の霊を崇拝し、祈りをささげた人々の生み出す仮面やさまざまな工芸は、私たちの発想の及ばない形態のもの、力を宿したものが数多くあります。このコーナーでは今後、アフリカ、アジアの国々を中心に、仮面や彫像などのプリミティブなもの、また、家具、道具、装飾品、染織品といった品々をとりあげて紹介していきます。その魅力を少しでも多くの方々に知っていただけたら幸いです。