天翔る群青の波頭が虚空をよぎる正午
子供たちの戯れる海上に時は滑り落ち
もはや世界の停止を告げる
ああ 紺碧の果てにまどろむサンアンドレアスの海
時制の呪縛を解き放たれた海底の奥深く
なお未墾の水脈を探る私は
いまだ明日に連なる旅人である。
雨季のアフリカはみずみずしい。
雨に濡れた緑が眩しいほどに目にしみる。
誰もいない村を木々や草いきれの溢れるなかを歩いていると
突然木立の陰からひとりの老人が現れた。けがれのない森に育まれた純朴なその顔。
ナイジェリアの森に生まれ 森に朽ちてゆくだろう ひとつの静かな人生。
灼熱と乾燥と躍動の大地アフリカ 加えて この湿潤な森の静謐。
アフリカは大きく そして 深い。
ナイジェリア エヌグ(ENUGU)北70km IKEM地方にて
干からびた大地に黄褐色の砂塵が降り積もる乾季
生きものたちは息をひそめ到来する雨の季節をじっと待つ。
雨季にはあたり一面、緑という緑が芽吹いて全ての命が湧き返り
砂にもやっていた空気も一挙に消えて遥か遠くまでくっきりと視界が晴れる。
生気を取り戻した大地は手に染まるかのような赤茶に覆われて
つつましい土壁の家でさえ一幅のタブローのようだ。
ガーナの首都アクラからグルンシ族の村、ボルガタンガまで約750Km.
夕刻に出発した四輪駆動は翌朝6時に現地に着く。
隣国ブルキナファソからのルートを通って幾度も訪ねているが、ガーナ側から行くのは初めてである。道中、目的であった外壁ペイントが見つからずがっかりしていたが
偶然立ち寄った一軒の中庭で今出来上がったばかりのような鮮やかな壁に出会った。
夢中で撮影していると子供たちが現われて、また絶好のシャッターチャンス到来だ。
熱く乾いた風が砂塵を舞い上げながら吹きぬけていく。
大地は太陽に焼かれ
岩も土壁も藁ぶきの家もすべてがオーカー一色に染まっている。
無人の真昼、侵入者の気配を察したのか、岩の上に子供がひとり現われた。
岸壁を背にした厳しい眼差しにかつて絶壁に追われたドゴン族の遠い過去が重なる。
陽が傾いて木々の長い影が地面に広がり始めるころ
放牧の老人は山羊を連れて家路へ向かう。日暮れに親が子供を連れ帰るように。
人と山羊は薄い水色の景色のなかを並んでとぼとぼ歩く。
村に着けば夕餉のやさしい煙がながれ、一日はほんとうに静かに暮れていくだろう。
いつも泊まるアクラの宿は海に面している。
晴天の朝は実に清々しく、10年程前まではよくこの海辺を走ったものだ。
すれ違う度にグッモーニングと声を掛け合う若者たち、地引き網の人々、
サッカーに興じ、水浴びを楽しみ、すべてが生き生きと輝いて
今日一日が海の上に健やかに広がっていくようだ。
コートジボアールの首都アビジャンは高層ビルがそびえる近代的な街だ。
トレッシュビルは庶民のマーケットが並ぶその下町である。
コロニアル風の窓の下にはゲームに興じる男たちがいる。
ゲームは延々と繰り返され、きっと夕暮れまで続くだろう。
気だるい退屈がゆるやかに午後を満たしてくる。急ぐ者はいない。
静かな無風の昼下がり、私もゆっくりとシャッターを切る。